仕訳プリント⑦-2 売上原価の算定(繰越商品)
次の取引を仕訳しなさい。
解説:売上原価の算定(繰越商品)とは (クリックで開く)
売上原価
簿記3級では、商品を仕入れ、その商品を売り上げる小売業や卸売業がビジネスモデルとして考えられています。そして、そういった業態では、売上につながった商品の仕入価格はとても重要な要素として捉えられます。
もちろん、会社を運営する上では、仕入価格だけでなく水道光熱費や給料などその他の費用も発生します。しかしそれでも、商売のコアとなる部分として、仕入価格は重要な立ち位置を占めます。なぜなら、売上価格から仕入価格を差し引いて示す利益(売上総利益や粗利といいます)が、会社の利益計算のスタートとなるからです。ここが赤字になるならば、会社のビジネスモデルとしてそもそもお話になりません。
この売り上げにつながった商品の仕入価格のことを、売上原価といいます。「売り上げのもとになった価格」ということです。ここで重要なのは、売上原価が意味するのが「当期の売り上げにつながった」仕入価格という点です。
たとえば、ある会社が創業し、第1期において総額10,000円の商品を仕入れたとしましょう。その商品を期中に売ってもうけを出していきます。そして、期末となって決算のタイミングで、倉庫に700円分の商品が在庫として残っていました。このとき、売上原価はいくらとすべきでしょうか。当期の商品仕入高となる10,000円でしょうか。
9,300円分は仕入れた上で期末に在庫として残っていません。ということは、第1期中に売れたと判断できるので売上原価になります。しかし、在庫の700円は含めてはいけません。なぜなら、売上原価は「当期の売り上げにつながった」仕入価格だからです。第1期に仕入れたものの期末に在庫として残っているということは、この700円分の商品は次期に持ち越され、おそらくは次期に販売されることになります。在庫商品700円は当期の売り上げにつながっていないので、当期の売上原価に含めてはいけません。次期の売上原価に含めるべきです。したがって、第1期の売上原価は9,300円とすべきです。
しかし、当期中に総額10,000円の商品を仕入れているので、決算のタイミングでは仕入勘定に10,000円が計上されています。この仕入の金額をそのまま売上原価としてしまっては、在庫分の700円も売上原価として処理されてしまいます。このままではまずいのです。
では、この在庫商品についてどのように処理すればいいでしょうか。そこで使用するのが勘定科目「繰越商品(資産)」です。そのまま、次期に繰り越す商品を表しています。
商品を仕入れた際には、仕入という費用として処理していました。これは、売り上げを生み出すために掛かるお金と捉えているからです。
しかし、残っている700円分の商品は次期に繰り越すのですから、費用ではなく商品という価値あるモノ、つまり資産として捉えなおすことができますよね。したがって、在庫商品700円分について仕入から繰越商品へ名義替えする(振り替える)仕訳を行います。仕入を700円減らし、繰越商品を同額700円増やすのです。未使用の切手について、通信費(費用)から貯蔵品(資産)に振り替えるのと同じ考えです。
繰越商品 | 700 | 仕 入 | 700 |
この仕訳をすると、仕入の金額は10,000円−700円=9,300円となります。また、期末時点で残っていた商品700円が繰越商品として記録されます。こうすることで、仕入の金額9,300円を売上原価として財務諸表に示すことができます。そして、次期に繰り越す700円の商品があることも示せます。
このようにして、当期に計上した仕入に対し、期末時点で残っていた商品の金額を差し引いて、売上原価を算定する必要があるのです。
なお、このように期末時点で在庫として残っている商品を、期末商品といいます。そして、期末商品がどれだけあるのかを期末商品棚卸高と表現します。
次期に繰り越した商品はどうするのか
期末商品を次期に繰り越す処理について見てきました。では、その次期において、繰り越した商品はどう処理することになるのでしょうか。
第1期から第2期に繰り越された商品を考えましょう。第2期からすると、この商品は当期の初め(期首)時点で倉庫にある商品となります。よって、第2期ではこの商品のことを期首商品と呼びます。期末商品と同様に、期首商品がどれだけあるのかを期首商品棚卸高で表します。ここで重要なのは、第1期の期末商品と、第2期の期首商品は同じだということです。第1期の期末商品が繰り越されて第2期の期首商品になるのだから、当たり前といえば当たり前です。
第2期における期首商品700円は、第1期では売れずに在庫のままでしたが、第2期ではおそらく売れることになります。あまりにも不人気で第2期でも売れないこともありえますが、処理の上ではいったん売れたことにしてしまいます。したがって、この期首商品700円は第2期の売り上げにつながったことになるので、第2期の売上原価に含めます。この期首商品は、第1期から資産の繰越商品として繰り越されてきました。したがって、今は繰越商品700円で記録されています。これを第2期の売上原価にしたいので、繰越商品から仕入勘定に移し替える処理をします。
仕 入 | 700 | 繰越商品 | 700 |
ちょうど、第1期に期末商品に対して行った仕訳の逆仕訳をします。前期に費用から資産にした700円を、当期に資産からまた費用に戻したことになります。こうすると、第2期の仕入が期首商品700円分増加し、その結果、それが売上原価に含まれることになります。
しかし、第2期の話はこれだけではありません。当然、第2期の期中でも商品の仕入を行っています。また、第2期の期末時点で売れずに残った期末商品もあることでしょう。したがって、第1期の期末に行ったような処理を再度行う必要があります。せっかくなので、期首商品に関する処理も、第2期の期末商品の処理を行うタイミングでまとめて行うことにします。つまり、期首商品は繰越商品のまま期首から期末まで記録され続けることになります。期首や期中に上記の仕訳を行うことはありません。
たとえば、第2期の期首商品棚卸高700円、当期商品仕入高13,000円、期末商品棚卸高1,200円だとすると、第2期の決算でどういった処理をすべきでしょうか。
まず、第1期から第2期に繰り越されてきた期首商品の処理を行いましょう。
仕 入 | 700 | 繰越商品 | 700 |
上で示した仕訳ですね。そして、その次に、今度は第2期から第3期に繰り越す期末商品の処理をしましょう。
繰越商品 | 1,200 | 仕 入 | 1,200 |
第2期の期末商品は1,200円ですから、700円と混同してしまわないように気を付けてください。
それでは、結局のところ第2期の売上原価はいくらになったのでしょうか。期首商品の仕訳では仕入が700円増えました。期末商品の仕訳で仕入は1,200円減りました。第2期の仕入総額は13,000円ですから、売上原価は次のように算出できます。
期首商品700円+当期仕入高13,000円−期末商品1,200円=12,500円
当期の初めに商品が700円分あって、第2期を通して13,000円の仕入を行い、それが期中に販売されることで商品が払い出されていき、期末時点で1,200円分残っていました。いったん社内に受け入れた商品(期首商品+当期仕入高)から、期末商品を差し引くことで、期中に販売された商品の価格、つまり売上原価の12,500円が計算できます。
以上のように、売上原価を算定する際には、期首商品の仕訳と期末商品の仕訳を同時に行います。この売上原価の算定の処理は、日商簿記3級の検定問題第3問で必ず出題されます。とても重要な項目なので、しっかり取り組んで得点できるようにしましょう。
なお、この2つの仕訳を、出てくる勘定科目の順番から「しーくりくりしー」の仕訳と呼ぶこともあります(仕入/繰越商品、繰越商品/仕入の頭文字です)。
6. 次の資料から、必要な決算整理仕訳をする。
期首商品棚卸高:79,000円
当期商品仕入高:840,000円
期末商品棚卸高:90,000円
借 方 科 目 | 金 額 | 貸 方 科 目 | 金 額 | |
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期首商品 |
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期末商品 |
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売上原価の金額円
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【解答】
期首商品 | 仕 入 | 79,000 | 繰越商品 | 79,000 |
期末商品 | 繰越商品 | 90,000 | 仕 入 | 90,000 |
売上原価の金額 | 829,000円 |
【解説】
決算で、期首商品と期末商品に関する仕訳を行い、売上原価を算定する問題です。
期首商品棚卸高は、前期から当期へ繰り越されてきた商品のことです。前期の売上原価にはならず、当期の売上原価に含めることになるので、仕入を増やして繰越商品を減らす仕訳をします。
一方、期末商品棚卸高は、当期から次期に繰り越す商品のことです。当期の売上原価に含めてはいけないので、仕入を減らして繰越商品を増やす仕訳をします。
期首商品について、仕入(費用)を増加させるので借方(左)に仕入79,000、その分繰越商品(資産)を減少させるので貸方(右)に繰越商品79,000を示します。
また、期末商品について、仕入(費用)を減少させるので貸方(右)に仕入90,000、その分繰越商品(資産)を増加させるので借方(左)に繰越商品90,000を示します。
また、当期中に仕入れた商品の金額が840,000円なので、売上原価は次のように計算できます。
期首商品79,000円+当期仕入高840,000円−期末商品90,000円=829,000円
期首商品棚卸高について、仕入を増やして繰越商品を減らす仕訳をする(しーくり)
期末商品棚卸高について、仕入を減らして繰越商品を増やす仕訳をする(くりしー)
※期首商品の仕訳と期末商品の仕訳を同時にやるのだから、借方貸方で仕入や繰越商品を相殺できるのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかし、この2つの仕訳は売上原価にかかわる点で共通していますが、別々の商品(期首商品と期末商品)を対象にしている別々の仕訳なので、仕訳の上では相殺することはありません。あくまで、別々の仕訳を同時に行っているだけです。ただし、売上原価の計算の過程で、結果的に相殺されます。
7. 期末商品棚卸高は184,000円だった。なお、期首商品棚卸高は230,000円である。
借 方 科 目 | 金 額 | 貸 方 科 目 | 金 額 |
---|---|---|---|
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【解答】
仕 入 | 230,000 | 繰越商品 | 230,000 |
繰越商品 | 184,000 | 仕 入 | 184,000 |
【解説】
決算での期首商品と期末商品に関する仕訳です。問6と同じように、期首商品棚卸高、期末商品棚卸高について、しーくりくりしーの仕訳をします。
なお、問題文では期末商品棚卸高が先に、期首商品棚卸高が後に示されていることに注意してください。基本的に、仕訳では1行目で期首商品の仕訳(しーくり)を行い、2行目で期末商品の仕訳(くりしー)を行います。期末と期首を取り間違えて、仕訳の際に対応させる金額を間違わないようにしてください。
期首商品について、仕入(費用)を増加させるので借方(左)に仕入230,000、その分繰越商品(資産)を減少させるので貸方(右)に繰越商品230,000を示します。
また、期末商品について、仕入(費用)を減少させるので貸方(右)に仕入184,000、その分繰越商品(資産)を増加させるので借方(左)に繰越商品230,000を示します。
※なお、この問題では問題文に当期の商品仕入高が示されていないので、売上原価を計算することはできません。
8. 決算整理前の繰越商品勘定の残高は60,000円(借方残高)である。期末商品棚卸高は75,000円であった。
借 方 科 目 | 金 額 | 貸 方 科 目 | 金 額 |
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【解答】
仕 入 | 60,000 | 繰越商品 | 60,000 |
繰越商品 | 75,000 | 仕 入 | 75,000 |
【解説】
決算での期首商品と期末商品に関する仕訳です。問6、7と同じように、期首商品棚卸高、期末商品棚卸高について、しーくりくりしーの仕訳をします。
なお、問題文では期首商品(棚卸高)という言葉がありませんが、「決算整理前の繰越商品勘定の残高」が期首商品の残高を示しています。前期末に仕入から繰越商品に移した金額60,000円が、そのまま当期の決算を行う期末まで残っていたということです。期中に繰越商品の金額が変動することは通常ないので、繰越商品の残高がそのままイコール期首商品棚卸高となります。
期首商品について、仕入(費用)を増加させるので借方(左)に仕入60,000、その分繰越商品(資産)を減少させるので貸方(右)に繰越商品60,000を示します。
また、期末商品について、仕入(費用)を減少させるので貸方(右)に仕入75,000、その分繰越商品(資産)を増加させるので借方(左)に繰越商品75,000を示します。
※決算問題では、本問のように期首商品棚卸高が試算表にある繰越商品の金額として示されます。問題に期首商品棚卸高という言葉が見当たらなくとも、試算表の繰越商品残高を確認することを忘れないでください。
9. 精算表の繰越商品勘定は借方410,000円、仕入勘定は借方3,200,000円である。期末商品棚卸高は335,000円であった。また、この仕訳によって、仕入勘定の残高はいくらに変わるか答えなさい。
借 方 科 目 | 金 額 | 貸 方 科 目 | 金 額 |
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決算整理仕訳後の仕入勘定残高円
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【解答】
仕 入 | 410,000 | 繰越商品 | 410,000 |
繰越商品 | 335,000 | 仕 入 | 335,000 |
仕訳後の仕入残高 | 3,275,000円 |
【解説】
決算において、期首商品棚卸高、期末商品棚卸高について、しーくりくりしーの仕訳を行い、売上原価の算定(仕入残高の計算)を行います。
問8と同様に期首商品(棚卸高)というが言葉がありませんが、「精算表の繰越商品勘定」として示されています。繰越商品は資産ですから、借方に計上されるため借方残高になります。
また、これまでの問題になかった「仕入勘定」も示されています。これが意味しているのは、当期においての仕入の総額、つまり当期商品仕入高のことです。当期において仕入を繰り返し、それが全額で3,200,000円になっていたということです。費用も借方に計上されるため、仕入は借方残高になります。
したがって、この問題の情報を整理すると期首商品棚卸高410,000円、当期商品仕入高3,200,000円、期末商品棚卸高335,000円となるので、これらから売上原価の算定を行います。
期首商品について、仕入(費用)を増加させるので借方(左)に仕入410,000、その分繰越商品(資産)を減少させるので貸方(右)に繰越商品410,000を示します。
また、期末商品について、仕入(費用)を減少させるので貸方(右)に仕入335,000、その分繰越商品(資産)を増加させるので借方(左)に繰越商品335,000を示します。
これらの仕訳の結果、仕入勘定残高は次のようになります。
期首商品410,000円+当期仕入高3,200,000円−期末商品335,000円=3,275,000円
この仕入残高3,275,000円が、つまりは売上原価として金額になります。