(1) 次に示す5月中の商品売買取引の資料にもとづいて、先入先出法によって解答欄の商品有高帳に記入し(締切不要)、5月中の売上高、売上原価および売上総利益を計算しなさい。(日付と摘要は採点対象外)

1. 仕入取引
×3年5月3日 松本商店 A商品 20個 @5,000円 100,000円
5月17日 長野商店 A商品 40個 @5,300円 212,000円
2. 売上取引
×3年5月10日 上田商店 A商品 25個 @8,200円 205,000円
5月25日 須坂商店 A商品 20個 @8,500円 170,000円

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商品有高帳とは、在庫商品の数量や単価、合計金額を記録しておくための補助簿です。商品を仕入れたり、売り上げたりした際に記録を付けます。仕入は商品が入ってくることなので「商品の受け入れ」、売り上げは商品が出ていくことなので「商品の払い出し」といいます。
日商簿記3級の第2問でその記入問題が出題されることがあるため、商品有高帳の記入方法を覚えておく必要があります。

商品の受け入れ・払い出しがあった際に、商品有高帳にその詳細を記録していきます。
まず日付、取引の内容を示す摘要を記入します。商品を受け入れた場合は受入欄に数量・単価・合計金額を、商品を払い出した場合は払出欄に数量・単価・合計金額を記入します。最後に、受け入れや払い出しの結果、在庫として残っている商品の数量・単価・合計金額を残高欄に記入します。

商品有高帳について重要なポイントは、2つあります。

1. 商品有高帳に記載する単価・合計金額は、必ず原価である

商品には2つの価格が存在します。原価(仕入価格)と売価(販売価格)です。商品売買においてはその価格差によって利益が発生するので、原価と売価の金額は異なります。70円で仕入れた商品を100円で販売することで30円の利益が出るのです。
商品有高帳においては、自社が保有する(していた)在庫商品の受け入れ・払い出し記録をつけています。そこで必要なのはあくまで原価だけです。
たとえば、1個あたり@70円の商品を10個合計700円で仕入れたとします。そして、このうち8個を1個あたり@100円で売り上げました。このとき、在庫として残っている商品2個の原価(仕入単価)はいくらでしょうか。
この計算をする際には、販売した商品の価格も原価で計算しなければいけません。

仕入単価@70仕入単価@70仕入単価@70
在庫10個700円販売8個560円在庫2個140円

こうすれば、在庫2個の金額も仕入単価@70円×2個=140円と正確に計算できます。
しかし、誤って販売した商品の価格を販売単価で計算してしまった場合、次のようになります。

仕入単価@70販売単価@100??単価
在庫10個700円販売8個800円在庫2個△100円

仕入単価と販売単価が混同されているので、在庫2個の価格がマイナスになってしまいました。当然これは不正確な金額です。
このように、商品の金額を正確に把握するために、商品有高帳に記入する金額は必ず原価で統一されます。問題によっては売価が問題文に記載される場合がありますが、それはひっかけであるか、別の問(売上高を求めるなど)で使う金額になります。商品有高帳では売価は使いません。

本問では、2.売上取引に売価が示されています。この価格は売り上げたときのものであるので、商品有高帳には記入しません。この商品の払い出しを商品有高帳に記録するときには、その商品の原価を記入します。5月10日に売り上げた商品は、その時点での在庫商品であった前期繰越や5月3日に仕入れた商品なので、その原価を記入します。5月25日の商品の売上(払い出し)も同じようにします。

2. 払出単価の計算方法 先入先出法・移動平均法

商品有高帳では払い出しの際に記録を付けます。つまり、商品を仕入れた受け入れ時だけでなく、払い出し時にも単価の記入が必要となります。しかし、同種の商品だとしても、仕入のタイミングや取引相手によって仕入価格が異なる場合があり得ます。そのため、払い出しの際に使う単価(払出単価)をどのように処理するのかを、一定のルールに従って決めなければなりません。日商簿記3級では、払出単価を求める方法として2つのパターンがあります。それが先入先出法と移動平均法です。
【先入先出法】
先入先出法は、先に仕入れた商品から先に販売する方法です。同種商品の仕入単価が異なる場合は、平均化などはせずにそれぞれの単価商品をそのまま記録しておきます。
たとえば、3日に1個あたり@70円のA商品を10個合計700円仕入れ、7日に同A商品を1個あたり@73円で20個合計1,460円仕入れたとします。仕入れたタイミングで単価が異なりますので、商品有高帳のA商品の記入欄ではそのまま別単価のA商品として記録しておきます。そして、販売する際には、先に仕入れた@70円の商品から先に払い出すことになります。仮に15個販売するならば、まず@70円の商品を10個払い出し、次いで@73円の商品を5個払い出すことになります。また、@70円のものは全て払い出されたので、売買取引後に在庫として残っているA商品15個は全て@73円のものです。
在庫に別単価の商品があったり、別単価の商品を一度に払い出したりする際には、先頭に中括弧「 { 」を書いて別単価の商品であることを示します。別単価のものを分けて記入するため、1つの取引について複数の行を使います。本問では、17日の仕入取引と25日の売上取引では「 { 」を使って2つの単価を示しており、1回の取引をそれぞれ2行使って記録します。そのため、空欄が多くなる傾向にあります。その空欄部分に誤って次の取引の数値を記入してしまうこともありますので、注意してください。

なお、在庫にある商品と同じ単価の商品を仕入れた場合は、分けずに一つにまとめます。本問では、前月から繰り越されてきた商品の単価と5月3日の仕入商品の単価が同額なので、それらをひとまとめにしてしまいます。

【移動平均法】
移動平均法については、移動平均法①の解き方のガイドを参照してください。

先入先出法、移動平均法のどちらを使うのかは必ず問題文に指示があるので、指示された方法で記入してください。

本問では先入先出法が指示されています。その上で、仕入取引については受入高欄に、売上取引については払出高欄に各項目を記入していきます。残高欄には、各取引を行った後での在庫の詳細を記入します。「 { 」が先頭にある部分については、異なる単価の商品をまとめていることを示しています。

 商品有高帳 
(先入先出法) A 商 品  
×3年 摘  要 受 入 高 払 出 高 残  高
数量 単価 金額 数量 単価 金額 数量 単価 金額
5 1 前月繰越 15 5,000 75,000 15 5,000 75,000

売上原価の計算
月初商品棚卸高
当月商品仕入高
合  計
月末商品棚卸高
売上原価
売上総利益の計算
売 上 高
売上原価
売上総利益

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【月初商品棚卸高】
月初めに在庫としてあった商品のことなので、商品有高帳における前月繰越の金額です(単価ではなく数量分の合計金額)。

【当月商品仕入高】
当月に仕入れた商品のことなので、商品有高帳における仕入の金額です。2回仕入れているので、その合計金額です。問題文の1.仕入取引の合計金額でもあります。

【月末商品棚卸高】
月末に在庫としてあった商品のことなので、商品有高帳における当月最後の取引後の残高の金額です。本問では省かれていますが、次月繰越の行があればその金額でもあります。

【売上原価】
まず、月初商品棚卸高に当月商品仕入高を加えた金額が、当月中にいったん在庫となった商品の全額です。そこから月末に残った商品である月末商品棚卸高を差し引けば、当月中に出庫された商品、つまり売り上げた商品の仕入価格がわかります。これが売上原価です。

【売上高】
当月に売り上げた商品なので、問題文の2.売上取引の合計金額です。商品有高帳に記載されている金額は全て仕入価格なので、売上高として必要な販売価格は載っていません。なお、この部分にのみ販売価格が必要となります。

【売上総利益】
当月の売上高から、売り上げた商品仕入にかかった費用である売上原価を差し引けば、商品売買で当月いくら利益が出たのかがわかります。これが売上総利益です。粗利とも言います。