商業簿記と工業簿記

 日商簿記2級の学習に入ると、学習範囲が2種類に分かれます。商業簿記工業簿記です。これらの違いはどこにあるのでしょうか。

 まず、大前提として、会社というものは営業活動を通して利益を生み出すことを目的としています。ゆえに、できるだけ大きな利益を得ようと試行錯誤するのです。どの業態でも、この会社の目的は変わりません。
 しかし、会社が利益を生み出すための仕組みは、それぞれの業態で異なります。また、その仕組みの差異から、試行錯誤の方法も異なることがあります。
 それでは、商業簿記と工業簿記は、それぞれどのような業態の会社を対象としているのでしょうか。

 商業簿記は、これまで3級で学習したものの延長と考えていいでしょう。その対象は、小売業卸売業などです。これらの業態では、完成している商品を仕入れて、それを売り上げることで利益を生み出します。

 一方、2級で新たに学ぶ工業簿記は、主に製造業などを対象としています。この業態では、自社で製品を製造して、その製品を売り上げることで利益を生み出します(建設業やソフトウェア開発業なども含みます)。

原価計算

 では、自社で製品を製造することと、他から商品を仕入れてくることで、どのような違いが出てくるのでしょうか。

 特徴的な違いは、「原価」の内容と、その計算方法です。
 利益は、売価(売上の金額)と原価(売上のために掛かった費用の金額)の関係によって決まります。原価に着目すると、より原価が少なくなれば、それだけ利益が大きくなることがわかります。ゆえに、会社はできるだけ原価を少なくさせたいのです。
 そのため、会社は原価に関する管理や分析を積極的に行おうとします。これまでの原価を把握し、それを分析し、次回にはより無駄の少ない原価になるように努力するのです。
 この原価は、それぞれの業態によって要素となるものが異なります。それにともない、その管理や分析方法も異なってきます。

 小売業や卸売業では、商品は完成品を仕入れてきます。仕入れた商品が売り上げにつながったら、その仕入の金額が売上原価となります。
 したがって、どんな商品を、どこから、どれだけの数を、どんなタイミングで仕入れ、どんなタイミングで売り出すのかなど、こういったことを管理・分析し、原価をできるだけ少なくして、利益を最大化することを目指します。売上原価に限って言えば、商品の仕入れ値(や付随費用)に関することだけを考えればよいことになります。

 一方、製造業では自社で製品を作ります。そして、製品の製造にかかる原価は多岐にわたります。製品を作るための材料費からはじまり、工場で働く従業員の人件費、工場を稼働させるエネルギー代や機械の修繕費など、様々な費用が計上され、その製品が売れることでそれら費用が売上原価となります(製品の製造にかかる費用は全て製造原価になります)。
 したがって、原価を少なくするといっても、単純に材料の仕入れ値についてのみに注目していては不十分です。材料なのか、人件費なのか、諸経費なのかなど、原価の中のどの部分について改善すべき点があるのかを、的確に把握できなければなりません。
 また、製品を何種類も製造している場合は、それぞれの製品についての費用を、別々に把握しなければなりません。
 さらに、製造過程の様々なタイミングで多様な費用が発生するために、製品の製造を始めた段階では原価の計算ができず、原価の全貌を把握できるのが遅くなってしまいます。
 こういった製造業などに特徴的な原価管理・分析に対応するためには、商業簿記とは異なる原価の計算方法が必要になります。

 それゆえに、製品を製造する上で、それぞれの費用をできるだけ正確に、かつ迅速に把握できるような工業簿記が考えられ、採用されるとこになりました。
 この方法を使えば、ある製品を製造するのにどんな種類の費用が、どれだけ掛かったのかということを、原価を計算してその過程や結果を事細かに記帳することができます。
 また、過年度の実績や市場価格などを鑑みて、年度の初めなどに将来掛かるだろう費用の予想を立てて、原価の見積額を計上する、ということもできます。
 こうすることで、製造の現状を正しく把握し、将来の見通しに沿って計画的に経営戦略を立てることができるのです。

タイムスパン

 また、原価計算とも関連しますが、工業簿記では「1か月間」という期間が重要になってきます。
 会社全体の会計期間に関しては、工業簿記も商業簿記と同じように基本的には1年です。
 しかし、原価計算に関しては、その計算を年度末まで待っていた場合、原価が膨れ上がっていて気づいたら赤字になっていた、という事態もありえます。したがって、原価計算の期間として月初日から月末日までの1か月間をタイムスパンとしており、もしも問題があれば即座に改善できるようになっています。
 このように工業簿記では、どれだけ材料を投入したのか、どれだけ製品が出来上がったのか、どれだけ原価が掛かったのかなど、様々な事柄を基本的に1か月単位で確認していくことになります。

 以上のように、工業簿記では、商業簿記とは異なるかたちで記帳がなされます。商業簿記とは異なる勘定科目が出てきますし、商業簿記よりも計算が複雑化しています。そして、それらは全て「原価計算」に重きを置いた方法になっています。
 ぜひ、このことを念頭に置いて、工業簿記の学習を進めてみてください。

 また、工業簿記を進めていくと、なんでこんなに言葉や表現が硬くてわかりにくいんだと思うかもしれません。それは、この工業簿記の元となっているのが、1962年に大蔵省が公表した「原価計算基準」という会計基準であり、これがとても分かりにくいことに起因しています。
 会計のルールとしてこうなんだと覚えられるならばそれでいいですが、どうしても覚えにくいときには、言葉をほぐして理屈として覚えられるようにしてみてください。